究極の魚釣り

漁師の言葉で卍「まんじ」と言う言葉がある。何をやっても、不運な人間を指す。
例えば、先の航海まで大漁だった船に卍が乗船した途端に漁が無くなったり、鰹の
一本釣りの漁で釣れ始めた時に卍が竿を入れたら急に釣れなくなったなど。 この
手の話は、海に捨てるほどある。 ここポンペイにも、「まんじ」もどき、いや!
それ以上の大卍が居る。
  
 太平洋の真中、大海原に何百何千という海鳥が集まって、餌の小魚を食っている。 
小魚が泳ぐ深さの下からは、鰹やマグロといった大きな魚が上がってきて、小さな
魚を食おうとする。 この魚の群れをナブラと言い、鳥の群れを鳥山(とりやま)
と呼ぶ。 遠くから見るとその鳥の多さに、まるで海の中に山が立っているように
見える。この鳥山の周りを、疑似餌のついた糸をボートでゆっくり流しながら、鰹
やマグロを釣り上げる。 鰹の鳥山に当たると厭になるほど釣れてしまう。 大抵
の人は5,6本釣ると疲れてしまう。 いやになると言うのは、これの10倍、50〜60
尾が釣れてしまう時だ。 しかし、そんな良い鳥山に出会っても、卍が同船してい
たら悲劇である。

 鳥山の周りを4,5隻のボートが、奔っている。 どのボートも少し走ると止まる。
よく見ると釣れた魚を取り入れているのだ、でも卍の乗ったボートは、止まらない。
獲物が餌を食わないから止まらない。 他のボートは、しょっちゅう止まる。鳥山
を一回りすれば5,6匹は、釣っている。 卍の乗ったボートは、5,6周しても釣れ
ない。 20周位するうちに他のボートにまで、「まんじ」の効力を発揮してしまう。
みんな釣れなくなってしまうのだ。そのうちボートはいなくなってしまった。しかし
鳥も魚もまだ群れている。

 諦めないぞ! 卍は頑張る。 それから何周か廻った時、卍の持つ糸に大きな当た
りが来た。 「きた! きたぞ! これは大きい。すごい! すごい引きだ!」卍は
さわぐ「ギャフだ! ギャフを用意してくれ!」鉤型に曲がった鉄の棒を用意する。 
卍が糸を手繰りはじめる。 重そうだ。 ボートは鳥山の中央に泊まっている。周り
は、ものすごい数の鳥だ。 どんどん糸を手繰る。 

 だんだん近くへ、重いぞ???・・ではなくて軽くなっているようだ。 はじめは
海に向かっていた糸が、手繰るたびに海中から海面へ。そして、遂に海の上へ出てき
た。今度は、逆に、遠くへ遠くへ、ぐんぐんと伸びていく。 卍は慌てた。 糸が!
糸が!空中へと上がっていく。 上がっていく糸の先を見た卍は、信じられない光景
を見た。

 先ほどまで鰹かマグロがついているものと思っていた卍は、張り切って、糸を引いて
いた。 しかし、今はこの糸を切って捨ててしまいたい。 
 だって、食べられない軍艦鳥を釣ってしまったんだもの!
 

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