ポンペイ自動車交通物語

 

 

 

 

 

 

 

 

 岸壁に立って正面を見る。そこに、ポンペイの象徴、ソケース・ロックがデーン!と、そびえている。 右手の方から、月に一度の貨物船が、ゆっくりと、わざと焦らせるように、岸壁に近づいてくる。

 接岸された船から、続々と日本製の中古車が下りてくる。 10,20台・・・年間700台前後
が、ポンペイへ永住の地を求めるように、集まってくる。 そして、中古車販売の業者が、次々と運んでいく。 運ばれた先では、大勢の人が、「新車?」を、見に集まる。 元来、暇な人たちだから、買わなくても見に来る。 そして、買わなくても、いろいろと意見を言う。 買わなくても欲しがり、一応値段を聞いてみる。 最後には、買うつもりは無いのに、「高い」とか、「型が古い」などと言い出す。中古ダ!「古いのは、あたりまえだろー」

  ポンペイで自動車を購入することは、大変なことである。 10人家族で働き手が、一人、なん
 て家族はザラで、そういう人たちが、自動車を手に入れる、ということは、計り知れない苦労が
 ある、と思う。 そう思うのは、一人ひとりの勝手らしく当の本人達は、それほど苦労をしてい
 るようには見えない。 南洋民族特有の陽気で、アッケラカンとしている。 ローンを組んで
 「支払いは、パンの実を採って、マーケットで売って・・・」くらいにでも、思っているのだろう
 か?

  自動車を買うことにしたら、次は? そう、免許書ですぞ! お父―さん、慌てて免許をとる
 ことに!な〜んて。 そして、勇んでいざ、教習場へ・・・ん!? ない! 自動車教習場がない!
 なんで?・・・そんなもん、ポンペイが出来た時からない! いらないんです。 それじゃー、ど
 うやって免許をとるかって? 良く聞いてくれました。 簡単です。 まず、警察署(日本の駐
 在所規模)ヘ行き、仮免を作る。 多分3ドルくらい。 これが
30日間有効で、その間、免許書
 を持っている人を隣りに乗せて、自主トレ?をして、自己流の運転技術を身に付ける。 自己流
 だから、何でもオーケー。 急に止まろうが、車をとめて、世間話をしていようが、誰にも文句
 はいわせない! そして、その事に誰も文句を言わない!!

  一応、読みなさい、と法規の教科書をもらうが、まともに読んでいる人は、いるんだろうか?
 スーパーの店先で、斜めに駐車して、二台分のスペースをとって、人が止められなくて迷惑して
 も、直線を走っているのに勝手に止まって、脇道の車を優先させたり、警官が、一生懸命にピー
 ピー笛を吹いて、交通整理して止めた車に、「先に行け」と、親切ぶって合図したり、「全てワレ
 かんせず」と、我が道を行くのだ。 そうやって、自分の運転に自信をつけて? 本番に臨むの
 です。

 
  そして本番。 これがまた、警察署。 警察には、試験用の車がないので、自分の車か、借りた車
 で、テストを受ける。 借りた車を運転して、ひとりで行くと、その場で、無免許運転の現行犯
 で、御用となる。 そういうときだけは、法律に厳しいから、要注意だ。 そして、その時、そ
 の場にいる警察官が、適当に教官となって同乗し、市街へ走り出し、テストが始まる。 ポンペ
 イ人全員が、同じレベルだから、警察官と言えども、変わりはなく、試験?の内容も決まってい
 ないので、滅茶苦茶なことを言い出す。 思い立ったことを試験問題にするから、危ないことこ
 のうえない。 受験をする人、警察官、車の持ち主、それに、誰か友達でも一緒に乗っていたら、ま
 るで、休日のドライブのような騒ぎになり、不倫をしているようなカップルを見かけると、あとを
 追跡させて冷やかしてみたり、メインストリートで、前の車を追い抜け、などと言ってみたり、
 警官が、自分で楽しむだけ楽しんで、試験終わり!なんて事もある。 そういう警官に当たると、
 弱みを見られているので、テストの結果は、実技、学科、共に
85点以上は確実で、一回で受かって
 しまう。 でも、今までに、テストに落ちて、やり直しをした人の話は聞いたことが無いんだけ
 ど!


 
  テストに受かり、車を買って、これも、警察に車検を取りに行く。 しかし、これはもういたっ
 て簡単。 中古車でも、着いたばかりの車は、船積みの書類さえあれば、検査はしない。 レジ
 スターすれば終わりで、直ぐにでも乗ることができる。 以前に、着いたばかりの車が、港から
 警察に直行して、レジスターしたら、そのまま動かなくなってしまい、三日間、警察署の前に止
 まっていたことがあった。
 レジスターは、一年限りの有効で、次の年は検査を受ける。 再検
 査は、期限?前に警察に行き、係りの警官に、言われたことをする。 まず、エンジンをかける。 ここで、エンジンがかからなかったら、あきらめてまた後日となる。エンジンがかかったら、方向
 指示器の点滅。次に、ブレーキランプの点滅。ヘッドライトの点滅等をクリアーし、ワイパーや
 ホーンが作動するか調べ、・・・それでおしまい。 ライトの向きや、ブレーキの利き方などは
 調べもしない。
 
  しかし、車検のための整備工場もないし、警察も気にしない。 車に、不具合が生じた時は、
 個人で直し、その後の検査などもない。

 
  島の人たちは、車を、年中買い換えることが出来ないから、できるだけ長く乗りつづけようとす
 る。 そして、乗れるだけ乗った車が、いよいよだめになっても、捨てるようなことはしない。  永年、連れ添った夫婦のように、愛着感がわいて、捨てるのに、忍びないと言うのだ。 が、そ
 れは真っ赤な嘘で、車体が、ボロボロに錆びて、崩れそうになっても、フロントガラスの一枚で
 もついていようものなら、「何時か、誰かが、事故を起こし、これを買いに来る!」と、あても、
 予定も無いのに、ただ、ひたすら待っている。 まるで「忠犬ハチ公」のミクロネシア版のよう
 である。 ただ、ハチ公にはない打算が、大いにあることはあるが・・・・。

   

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