ポンペイ自動車交通物語 その2

 

2005年、ポンペイの、交通関係の世界に、新しい風が吹いた。コンピューターを駆使して、カード
式の免許書が出来るようになったのだ。

「革命」と言っても、大げさに聞こえないくらいに凄いことだった。それまでは、少し厚手の紙に印
刷された免許書に、写真を貼った物だった。この免許書に貼る写真、何の規定も無く、ある程度
前を向いていて、ある程度奇麗に(顔ではなくて、画像)映っていれば、カラー、白黒問わず、どん
な服を着ていようが、何年か前に撮った写真であろうが、アルバムから抜き出した、スナップ写
真を切り抜いた物でも良かった。写真以前の免許書は、四角い写真用のますの中に、「拇印」
を押した物だった。今だに、これが、何の意味があったのか分からない。分からないまま、3年間
界中の何処の国でも通用しないし、信じてもらえそうも無い免許書を使っていた。

たまに一斉の検問がある。それも、週末の、夜中。大げさに何台ものパトカーの、赤と青の電気を、
くるくる回して道路を封鎖し、一台一台窓を開けて運転席を覗き込み、免許書を出せと言う。そし
て懐中電気を照らして、運転手の顔と、免許書の拇印を照らし合わせる! 神業に近い一斉取
り調べである。このとき、酔っ払っていても何も言われない。しかし、 飲みながら運転していた
り、車内に、飲みかけのビール等があったり、警官に、生意気な口を利いたり文句を言おうもの
なら、すぐに降ろされる。そしてお調べが。別に、風船などは、膨らましたりしない。目をつぶって、
両手を水平に開いて、5メートルほど歩くだけである。もし、そこで少しでもよろける様なら、車は
没収、徒歩で帰される。夜の夜中に、徒歩で帰されるなんて、トホホである。勿論、免許書不携
帯でも、歩かされる。

この革命的な免許書が、早く欲しくて、今年4月の切り替えが、待ち遠しかった。 前の日に行った
日本人のおばさんが、直ぐに出来た新品の免許書を見せてくれた。そこで、言わなくても良いの
に、「免許書は、新しいが、人間が古い」と、言ってしまった。この一言が、祟られた。ポンペイでは、
先に免許書を作って、後で払うと言うやり方は、通用しない。できた物を受け取ると、誰も払わず
に、行ってしまうからで、必ず先に料金を、むしりとる。これがまたとんでもなく面倒くさい。警察
署で、免許書かき換えの書類を作ってもらい、1キロ離れたファイナンスへ行き、6.50ドル払っ
てレシートをもらい、それを警察にまた提出する。そこで初めて、椅子に座ってカード用の写真
が撮って貰える。この手順を踏まないと、いつまでたっても何もしてくれない。写真をとって、カ
ードができるのにどの位時間がかかるのか、聞いてみた。「コンピューターだ!直ぐに終わる」
との返事。

写真の時と同じ椅子に腰掛けたまま暫く待っていると、別室から、さっきの警官が出てきた。やっと
終わったと思い、椅子から立ち上がると、「コンピューターの調子がチョッとおかしいんだ。明日で
きるから、明日来てくれ。」と、お得意の「明日作戦」が出た。文句を言いたくもなるが、言っても
どうしようもない。そして、次の日。「あのー 免許書、取りに着たんですけど」「あ〜、あんたの
ネ。今日、係りの女の子、休みだから、明日きて!」うっそ〜。「他に誰か、係りの人、いないん
ですか〜?」「あ〜、いるよ。だけど、やり方しらねーんだよ!」んじゃー、一体何の係りじゃ
イ。そして三日目。「あのー」「あ、あの子きょう、葬式行ってるから。今週は、もう出てこない
と思うよ。」「じゃー、来週の、月曜日?」「そ!」哀しい会話だった。

週明けの、月曜日。もしかしたら・・・の、気持ちで警察署へ。予感が的中した。「あの子ネー、
可愛そうに」「え?」「可愛そうに、葬式でもらった、豚を食べてねー、お腹こわして、入院しち
ゃったんだー。」「・・・・・・・・・・・」ボクの方が可愛そう!

仕方が無いから、昔風のやり方で免許書を作ってもらった。こっちも、いい加減になってきたか
ら、適当な写真を持っていくと、なぜか快く、直ぐに作ってくれた。「で、本物は、いつ?」「来月
だね!」そして5月。もう、行くのが面倒だから、電話で聞いてみた。「カードの免許書、まだ貰
ってないんですけど」「あのネー、コンピューターが壊れちゃったの!当分作れないから、その
まま、使ってて。」

・・・そして今も、そのまま。何時になったら、最新式の、カードの免許書がもらえるんだろー。
ポナペタイム、ミクロネシアタイムで待っていると、カードの免許書を貰う前に、今の、仮の免許
書が、期限切れになってしまうかも知れない。

(注)これは、フィクションではありません。実在する人物と、実際に起きたミステリアスなお話しです。

   

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